熊本地震から学ぶ8つの教訓:災害関連死が約8割を占めた背景と対策
災害関連死とは、自然災害の直接的な影響による死亡ではなく、その後の避難生活やストレス、既存疾患の悪化など間接的な要因で亡くなることを指します。特に高齢者が多く影響を受けるこの問題は、熊本地震でも深刻な事態を招きました。この記事では、熊本地震における災害関連死の状況と、それから得られる教訓について詳しく見ていきます。
災害関連死とは?
災害関連死とは、地震や津波などの直接的な被害による死亡ではなく、その後の避難生活や精神的ストレス、持病の悪化など間接的な要因によって亡くなることを指します。特に高齢者が多く命を落としていますが、若い人も死に至るケースがあります。災害関連死を防ぐためには、災害発生後の健康管理や適切な避難対策を講じることが重要です。
災害関連死については↓↓(2024年10月4日投稿コラム)
熊本地震における災害関連死の実態
熊本地震では、死者の約8割が災害関連死とされ、特に高齢者に多く見られました。避難生活でのストレスや医療機関の機能停止が主な原因で、呼吸器系や循環器系の疾患が多くの関連死を引き起こしました。熊本地震ではなぜ災害関連死が多かったのか、その実態を詳しく解説します。
災害関連死が死者の約8割を占める
2016年の熊本地震では、直接死は50人ですが、全体の死者数の約8割が災害関連死でした。
直接死 | 災害関連死 | 二次災害死(大雨など) | 全体の死者数 | |
死者数 | 50人 | 218人 | 5人 | 274人 |
熊本地震では、前震(M6.5)と本震(M7.3)が最大震度7を記録し、約20万棟の家屋が損壊しました。半年間で約4000回の余震が発生し、避難生活者に大きなストレスを与えたことが、災害関連死が増加した要因とされています。
2011年の東日本大震災では、死者・行方不明者約2万人のうち、災害関連死が認定されているのは、約3,800人。このことから、熊本地震の災害関連死の割合が非常に高いことがわかります。
災害関連死の約8割は70歳以上
熊本県が2018年公表した「震災関連死の概況について」の調査結果は以下の通りです。
<性別の関連死者数と割合>
性別 | 災害関連死者数 | 割合 |
男性 | 115人 | 約53% |
女性 | 103人 | 約47% |
<年代別の関連死者数と割合>
年代別 | 災害関連死者数 | 割合 |
60歳代 | 31人 | 14.2% |
70歳代 | 46人 | 21.2% |
80歳代 | 75人 | 34.4% |
90歳代 | 45人 | 20.6% |
100歳代 | 3人 | 1.4% |
災害関連死の調査結果によると、70歳代以上が169人と全体の約8割を占めました。これは高齢者が避難生活の中で特に肉体的・精神的な負担を強いられることが要因とされています。また、男女の差はほとんどなく、誰もが災害関連死のリスクにさらされる可能性があります。
災害関連死の主な原因は肉体的・精神的負担
熊本県の調査では、災害関連死の原因の約40%が地震のショックや余震への恐怖による精神的負担に関連していることが明らかになりました。また、避難所生活の過酷な環境が健康に悪影響を及ぼし、特に高齢者の体調を悪化させる要因となっています。
<災害関連死の原因>
- 地震のショック、余震への恐怖による肉体的・精神的負担:112人(40%)
- 避難所等生活の肉体的・精神的負担:81人(28.9%)
- 医療機関の機能停止等(転院を含む)による初期治療の遅れ(既往症の悪化及び疾病の発症を含む):14人(5%)
- 電気、ガス、水道等の途絶による肉体的・精神的負担:14人(5.0%)
災害関連死の主な死因は呼吸器系・循環器系疾患
死因別に見ると、呼吸器系の疾患と循環器系の疾患が全体の約6割を占めました。
<災害関連死の死因疾患>
- 呼吸器系の疾患(肺炎、気管支炎など): 63人 (28.9%)
- 循環器系の疾患(心不全、くも膜下出血など): 60人(27.5%)
- 内因性の急死、突然死等:29(13.3%)
- 自殺:19人(8.7%)
- 感染症(敗血症など):14人(6.4%)
以上の調査結果から、高齢者や配慮が必要な人が、避難所などの不慣れな環境で長期間の避難生活を強いられ、肉体的・精神的な負担が生じたことが、関連死を招いた原因とされています。
熊本地震の災害関連死から学ぶ4つの教訓と対策【避難所生活編】
避難所生活では、適切な水分補給や栄養バランスの維持が重要です。エコノミークラス症候群や誤えん性肺炎の予防、ストレス管理も不可欠で、これらの対策が避難生活の健康を守ります。熊本地震から学んだ避難所生活の教訓を紹介します。
水分補給と栄養バランス
避難生活ではこまめな水分補給や栄養バランスの取れた食事を取ることが重要です。食欲がない場合でも、甘い物や汁物を摂るよう心がけ、エネルギーを補充しましょう。水分をしっかり摂ることで脱水症状や便秘を防げます。
特に、高齢者はトイレに行くのを避けるために水分を取らない人もいるので、積極的に水分補給するよう促してください。レトルト食品であっても、缶詰でタンパク質を取ったり、野菜ジュースを飲んだりして、組み合わせを意識しつつ栄養バランスを保つことが大切です。
エコノミークラス症候群対策をする
エコノミークラス症候群の予防には、こまめな水分補給と運動が大切です。エコノミークラス症候群とは、長時間足を動かさないことで静脈に血栓ができやすくなる病気です。血栓が血管内を移動し、肺に詰まることで肺塞栓を引き起こす可能性があります。
水分は、2時間ごとに少量ずつ摂るよう心がけましょう。1日あたりペットボトル500mlを2本が目安です。冷たい飲み物だけではなく、温かい飲み物も用意することが推奨されます。
数時間おきに軽い体操やストレッチを行い、足の指を動かしたり、ふくらはぎをマッサージしたりすることも効果的です。]
口腔ケアで「誤えん性肺炎」を防ぐ
避難生活では口腔ケアを怠らず、清潔に保つことが重要です。口腔内の細菌が唾液や食べ物とともに肺に入ると、誤えんによる肺炎を引き起こすリスクが高まります。
断水時は少量の水や歯磨きシートを使用し、唾液腺マッサージで唾液の分泌を促すことで予防対策になります。特に高齢者は注意が必要です。定期的に体を動かしつつ、口腔ケアも徹底しましょう。
ストレスのケアをする
先述したように、地震による精神的な負担を和らげるため、ストレス管理も重要です。熊本地震では災害派遣精神医療チームが心のケアに取り組みました。不安や眠れない状態は自然な反応であり、時間が経てば回復することが多いです。飲酒は控え、リラックスする方法を取り入れ、家族や近所と支え合いましょう。
また、避難所から仮設住宅に移る際の環境変化によるストレスにも要注意。将来への不安が高まり、強いストレスを感じることで高血圧などの病気にも影響することがあります。ストレスを和らげるために、医療相談を気軽に活用するのもおすすめです。
熊本地震の災害関連死から学ぶ4つの教訓と対策【家庭編】
家庭での防災対策として、適切な備蓄が重要です。水や非常食、薬の備蓄、簡易トイレの用意、ガソリン・灯油の確保は避難生活を支える基本です。これらの準備で災害時の生活を少しでも快適に保つことができます。熊本地震の教訓から学んだ家庭でできる対策を紹介します。
防災グッズを準備する
水や非常食を含めた防災グッズの準備は必須。ライフラインの復旧や支援物資の到着には約3日かかるため、最低でも3日分、余裕を持って1週間分の防災グッズを用意しておくと安心です。避難所では食生活が偏る可能性があるため、栄養バランスの取れた非常食を準備することが大切です。
温かい食事が提供されない場合に備えて、発熱剤入りの非常食があると便利。非常食は飲料水、缶詰、レトルト食品、乾麺などを中心に、主食と主菜をバランス良く用意しましょう。塩分補給やストレス軽減のために、梅干しやチョコレートも備えておくことをおすすめします。
服用している薬を備蓄する
持病の薬は、継続して服用する必要があるため、忘れずに備蓄しておきましょう。東日本大震災や熊本地震では、処方薬不足が問題となりました。災害救助法により災害処方箋制度が利用でき、救護所で処方箋が発行されるようになっています。
しかし、持病の薬は事前にかかりつけ医と相談し、多めに処方してもらい、非常用持ち出し袋に備蓄しておくと安心です。薬は処方日が早い順から使用し、常に新しいものをストックしましょう。
非常用の簡易トイレを用意する
災害発生後、ライフラインが停止すると水洗トイレが使用できなくなるため、非常用の簡易トイレが大いに役立ちます。排泄物の処理が滞ると、細菌感染や害虫発生のリスクが増大し、衛生環境が悪化します。
避難所ではトイレの不衛生さから排泄を我慢しがちです。その結果、水分や食事の摂取が減り、栄養状態が悪化する可能性があります。これが脱水症状やエコノミークラス症候群など、さらなる健康問題を引き起こす原因にもなります。
水を使わず、簡単に処理できる非常用の簡易トイレは、災害時に非常に有用です。
ガソリン満タン・灯油プラス1缶の備蓄を心がける
災害時の避難所生活では、ガソリンや灯油の備蓄が重要です。停電や寒さ対策として、ガソリンは車の燃料、灯油は暖房用に活用できます。特に冬場は体温維持が健康に直結するため、灯油プラス1缶の備蓄を心がけましょう。
ガソリンを満タンにしておくと、避難や支援物資の輸送にも対応できます。また車内が一時的な避難場所となり、パーソナルスペースを確保するのにも役立つでしょう。
【防災対策】家庭でできること11選|災害が起きる前に万全の備えを
熊本地震の災害関連死を教訓に、備えを万全にしよう
熊本地震の災害関連死の事例から学ぶべき教訓は多くあります。特に適切な備蓄や避難生活での健康管理、ストレスケアが重要です。家庭での防災対策と避難所生活の改善を図ることで、次回の災害に対する備えを万全にし、被害を最小限に抑えましょう。
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