
防災活動に取り組む現役消防士に聞く“いのちの守り方”

あっという間に命を奪いかねない火災。柳田さん(右)と河野さん(左)は、災害現場で人々の安心安全、命を守る現役の消防士です。
お二人が所属する消防局があるのは、海に面する神奈川県。海水浴をはじめ川遊びが楽しめる場所も多いことから、水難事故に注意が必要な土地柄ともいえます。
今回はお二人に、いざというとき命を守るために一人ひとりができることをうかがいました。
一般社団法人 火災予防のONE LOVE 柳田 広太さん 現役消防士として現場に立ちながら、『一般社団法人 火災予防のONE LOVE』のメンバーとして「子どもを守る火災予防教室」を全国で展開。親子で学べる体験型プログラムを取り入れながら、火災から自分のいのちを守るための方法を伝えている。 |
一般社団法人 いのちを繋ぐGOODLUCK 河野 賢治郎さん 現役消防士として勤務する傍ら、「いのちを繋ぐ救命教育の普及」と「水遊びの事故予防啓発」を行う『一般社団法人 いのちを繋ぐGOODLUCK』の共同代表としても活動。AEDや心臓マッサージを体験できる救命アトラクションや安全教室を各地で開催し、子どもたちが“命を守る力”を身につける機会を届けている。 |
火災は、あっという間に“逃げ場”を奪う

「火災は、私たち消防士の間で“静かな災害”と呼ばれています」と、柳田さん。
地震や津波のように大きな音や揺れで気づける災害と違い、火災は発生時にわかりやすい音がしません。そのため気づくのが遅れてしまい、煙を吸い込んで被害につながるケースが多いのだそう。
柳田さんが初めて現場で亡くなった方を目にしたのも、そんな火災現場でした。
「ドアの近くではなく、リビングで倒れて亡くなってしまっている方も多いんです。おそらく気づいたときには火の手が回っていたり、火を消そうとがんばりすぎたりして、煙を吸ってしまったんだと思います」
消火は大切だが、それより優先すべきことがあるのではないか――。
初めての現場では、そんなやるせない思いを抱えたといいます。
「人が逃げ遅れる一番の理由は、普段から避難経路を確認していないことです。 例えば、3階にある居酒屋へ行ったとき、『階段はここだけか?』と考える人は多くないと思います。別の非常口や階段があったとしても、事前に確認していないと非常時に逃げられませんよね」
また避難経路がわかっていても、そこに物が置かれていたり、鍵がかかっていて使えなかったりすることも考えられます。
「だからこそ、日常的に避難経路を確認するクセをつけてほしいですね。消防訓練というと火を消す練習を思い浮かべる方が多いですが、実際には“無理せず逃げる”判断がとても大切です」
水難事故は、日常のすぐそばに潜んでいる

「子どもは静かに、そして早く溺れます」
河野さんがまず口にしたのは、この一言でした。
「子どもは、自分が溺れていることにすら気づかないんです。そのため、大きく暴れたり叫んだりもできないまま、静かに短時間で沈んでしまいます。大人がすぐそばにいても、突然視界から消えるので気づくのが遅れてしまうんです」
さらに河野さんが警鐘を鳴らすのは、中高生の事故。友人同士でふざけて飛び込むような川遊びが、そのまま悲劇に変わってしまうことも少なくありません。
「川は見た目が穏やかでも、水面下では流れが速いことがあります。海と違って流れの方向や速さが外から見えづらく、安全かどうかの判断が難しいんです」
事故が起こる要因として、備え不足があると考えている河野さん。水難事故を防ぐために提唱しているのが、水辺で遊ぶときの3つのマストアイテムです。
1.ライフジャケット
「水難事故のリスクは、ライフジャケットを着けることでぐっと減らせます。最近は無料貸し出しがある場所も増えてきていますが、出かける前に必ず確認してください」
2.安全な靴
「ビーチサンダルは滑りやすく脱げやすい特徴があるので、マリンシューズやバンドがあるサンダルなど、脱げにくく自分の足に合う靴がおすすめです」
3.スマートフォンの防水ケース
「もし流されてしまっても、スマートフォンがあれば救難発信ができます。海の場合は『118』で海上保安庁に救難要請が可能です。自分の命を守るためにも、水辺でもスマートフォンは身につけてほしいです」
加えて、事故を防ぐために保護者が大切にすべきことは、子どもから絶対に目を離さないことです。
「大人1人が数人の子どもを連れていくと、目が行き届かなくなりやすいので、できれば複数の大人で見守る体制を作ってほしいですね。どうしても人数が足りない場合は、『準備が整うまで水に入らない』というルールを子どもたちと決めるのも有効です」
その時、どうする?火災・水難の“初動と備え”

火災で命を落とさないためには、事前の備えが何より大切。家庭でできる3つの備えが、家族の命を守ると柳田さんは話します。
1.家族で逃げる方法を確認しておく
「例えば、マンションのバルコニーにある避難はしごはどうやって使うのか、インターネットなどで確認してみてください。戸建住宅であれば、階段が使えないときの窓から逃げる方法を話し合ってみてください」
2.火災報知器を備える
「火災に早く気づくことも大切です。戸建住宅は設置が義務づけられていますが、電池切れや誤作動を防ぐために定期的な点検をお願いします。また大きいマンションでは“自動火災報知設備”という警報設備があります。半年に1回、点検業者によって感知器が正常に作動するか点検することがあるので、マンションにお住まいの方はご協力をお願いします。寝ているときにも火災に気づけるように、どちらの警報設備も万全の状態にしてきたいですね。」
3.掃除・整理整頓
「燃えやすいものがコンロ周りやコンセント付近にたくさんあるのは危険です。普段から掃除をしておくことで、燃え広がるリスクをぐっと減らせますよ」
柳田さんは子どもたちに火災の怖さと備えを伝えるために、こんな工夫もしているそうです。

「非常口の緑のマークは“逃げろマーク”と呼んでいて、みんなに覚えてもらうようにしています。イベントでは“みどりマン”という緑色の全身タイツのキャラクターが登場して、子どもたちに楽しく伝えているんですよ」

河野さんは“水辺で遊ぶときの3つのマストアイテム”に加えて、いざ遊ぶときに心がけてほしいことがあると言います。
「水辺で遊ぶときは、必ず2人1組のバディを組むことが大切です。手を離す瞬間はあっても、目だけは絶対に離さないようにしましょう。遊ぶ場所もライフセーバーが常駐している海水浴場や、監視が行き届いたプールを選ぶといいですね。海のコンディションは旗の色で示されていて、青は安全、黄色は注意、赤は遊泳禁止。これを知らずに遊ぶのはとても危険です」
日頃からの準備と家族や地域の協力が、命を守る大きな力になる。柳田さんと河野さんの言葉が、改めてその大切さを教えてくれました。
“消防士がいない時間”の命を守るために

柳田さんは消防士として13年、現場で多くの火災を経験してきました。しかし、実際に現場から人を救い出せたことはまだ一度もないと言います。
「だからこそ、火災が起きる前の予防をもっと広げていきたい。特に子どもたちには、小さいころから命を守る大切さを学んでほしいんです。ONE LOVEに加わったのは、火災から救えた人の数を0から1にしたいと思ったからです」
ONE LOVEでは、その思いに共感した仲間と火災予防教室を広めようと活動しています。
「子どもたちから『初めて聞いた』『ためになった』という声を聞くと、本当にやっていてよかったなと感じます。いつか『火災予防教室のおかげで逃げられた』という話が聞けたら、涙が出るくらいうれしいですね」

GOODLUCKを率いる河野さんもまた、命を守る教育に熱い情熱を持っています。
「救命行動って大人だけのものだと思われがちですが、子どもたちが真剣に話を聞く様子を見ると、その可能性の大きさに驚かされます。また子どもたちが保護者に“あそこにAEDがあったよ!”と自宅周辺のAEDの場所をシェアする姿を見ると、子どもたちの発信力の重要性に気付かされます。命を守る勇気は、年齢や経験に関係なく誰にでも持てるもの。だからこそ、子どもたちにも“自分にできること”を伝えていきたいです」
そのうえで、消防士としての現場経験から痛感したのはやはり、備えることの重要性です。
「消防車が現場に到着するまでには平均して10分かかるといわれていますが、人が倒れ心停止になってから何もせず1分間経過すると、生存できる可能性である救命率が約10%低下するといわれています。消防士がくるまでの間も自分の命を守るには、備えが大切だと伝え続けることが使命だと思っています」

さらに、災害時の緊急車両や資機材への燃料供給も重要な課題であると指摘します。
「消防車の燃料が切れてしまえば、その町の消防力はゼロになってしまいます。ガソリンで動く資機材もあり、必要なときにすぐ使えるようにしておかなければなりません。だからこそ、普段から燃料を満タンに保つことが災害時の円滑な活動に直結するんです」
東日本大震災では給油所が機能しなかったり、みんなが慌てて押し寄せたりして混乱が起きました。消防士だけでなく、地域全体で支え合うことが大切だと二人は口を揃えます。
「災害時は誰もが不安になりがちですが、みんなが協力し合ってこそ、緊急車両への燃料供給もスムーズにいく。いつ何が起こるかわからないからこそ、常に準備を怠らないことが命を守ることにつながるんだと感じています」
身近なことから小さな準備を始めよう

防災は特別なことではなく、毎日の暮らしの中にある小さな準備こそが、大切な命を守る一歩になります。
「普段からできることをやっておくと、火災が起きても慌てずに済む。そんな安心感が持てるのが一番大事です。例えば、帰り道に非常口マークをお子さんと一緒に探してみるのもいいですね。家の周りのAEDの場所を散歩しながら家族で確認するとか。そんな身近なことからで十分なんですよ」と河野さん。
柳田さんも、災害時に安全な行動が取れるよう、自分の地域の危険な場所を知れるハザードマップを確認しているといいます。さらに、災害時の連絡手段にも工夫がありました。
「LINEのプロフィールに『無事です』と一言書いておくだけで、回線が不安定でも離れた家族が安否を確認できるんです。こういう小さなルールも家族で決めておくと安心ですよ」
あなたの行動が、誰かの命をつなぐ

防災は、決してプレッシャーに感じなくていい。むしろ、楽しみながら家族でできることを少しずつ進めていってほしい。二人の思いは共通しています。
「たった一人の行動が、誰かを救うことにつながるかもしれません。それがどんどん広がっていけば、きっとよりよい社会になっていくはずです」
命を守り、救う行動は決してハードルの高いことではなく、特別な訓練や道具も必要ありません。日常の延長線上で始められることを、柳田さんと河野さんは教えてくれました。
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